「ママ、見てないから、赤信号だけど渡っちゃおうよ」
「バレなきゃ、大丈夫だよ」
もし、お子さんの口からそんな言葉が出てきたら、あなたはどう感じますか?
「そんなことは教えたつもりはないのに、どうして…」と、ショックを受けるかもしれません。
しかし、私たち大人は、日々の生活の中で、知らず知らずのうちに子どもたちに「悪いこと」を教えてしまっている瞬間があるのかもしれません。
「ちょっとくらいなら大丈夫」
「誰も見ていないから、いいじゃない」
そんな、大人の世界の「小さなごまかし」を、子どもたちは鋭く見ています。
この記事では、子どもたちの心に「誠実さ」という、一生揺らぐことのない道徳的な羅針盤をどう育むかについて、日本の古くからの美しい教えと共に考えていきたいと思います。
子どもは「親の言葉」ではなく「親の行動」を見ている
子どもは、私たちが思う以上に親のことをよく観察しています。 私たちが子どもに「正直でいなさい」と100回教えるよりも、私たちが正直に行動する姿を1回見せる方が、何倍も強い影響力を持ちます。
例えば、
- お店でお釣りを多くもらった時、「ラッキー」と言ってそのままにしていないか。
- 都合の悪い電話に、「今、いないって言って」と、子どもに嘘をつかせていないか。
- ゴミの分別や交通ルールなど、小さな社会のルールを「面倒だから」と破っていないか。
これらは、大人にとっては些細なことかもしれません。 しかし、子どもたちの目には、
「ルールは、見つからなければ破ってもいい」
「自分の利益のためなら、小さな嘘は許されるもの」
「今日は、特別だからOK」という、
歪んだメッセージとして映ってしまう危険性があるのです。

なぜ正直でいるべきか?
「お天道様が見ている」という教え
では、私たちは子どもに、なぜ正直であるべきか、なぜルールを守るべきかを、どう伝えれば良いのでしょうか。
その答えのヒントが、日本の古くからの教えである「お天道(おてんとう)さまが、見ている」という言葉の中に隠されています。
これは、誰か特定の人が見ていなくても、『天の上から太陽があなたの行いをすべて見ていますよ』、という意味です。 この教えの本当に素晴らしいところは、「誰かに怒られるから、罰せられるから、やらない」という、他人の目を基準にした行動原理ではない、という点にあります。
そうではなく、「誰も見ていなくても、正しい行いをすること自体が、人間として尊いことなのだ」という、自分自身の心の中に「誠実さの基準」を育む教えなのです。 この「内なるお天道さま」を持つことこそが、どんな状況でも、人として恥ずかしくない道を選ぶための一生の羅針盤となります。
家庭で育む「内なるお天道さま」。
今日からできる3つのこと
この道徳的な羅針盤を、家庭でどう育んでいけば良いのでしょうか。

① 親が、自分の失敗を正直に話す
親が完璧である必要は全くありません。
むしろ、親自身が「ごめんね、さっきお母さん、つい嘘をついちゃった。本当はこう言うべきだった」と、自分の失敗を正直に認め謝る姿を見せましょう。
その姿は、子どもにとって「正直であることは、かっこいいことなんだ」という、何よりの学びになります。
② 結果ではなく「誠実さ」を褒める
お子さんが、何かを壊してしまったけれど、正直に打ち明けてくれた時。
まずは、「隠さずに、正直に言ってくれてありがとう。その勇気が、お母さんは一番嬉しいよ」と、その誠実な「行動」を褒める。
そうすることで、子どもは「正直でいると、良いことがある」と学習します。
③ 「もし自分だったら?」と問いかける
ルールを破りそうになった時、「ダメ!」と禁止するだけでなく、「もし、みんなが同じことをしたら、この公園はどうなっちゃうかな?」「もし、〇〇ちゃんが列に並んでいる時に、誰かに割り込まれたら、どんな気持ちがする?」と、その子の想像力に働きかけましょう。
他者の視点に立つことが、思いやりの心を育み、ルールを守る本当の意味を理解する助けとなります。
最高の贈り物は「誠実な心」
子どもたちを、すべての悪いことから守り、無菌室で育てることも、温室の中で一生を過ごすこともできません。
私たち親ができる最も大切な役割は、子どもたちが自分自身の力で善悪を判断し、たとえ誰も見ていなくても胸を張って正しい道を選べるような、「誠実な心」という名の「内なるお天道さま」を育む手助けをすることです。
その羅針盤さえあれば、子どもたちはどんな時代でも、どんな場所でも、人として豊かで、誇り高い人生を歩んでいけるはずです。


