日本の私たちが今すべきこととは?
これまでの記事で、日本の学力低下の問題や、その対策として「紙の教科書」へと回帰したスウェーデンの事例をご紹介してきました。
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今回は、世界の教育をリードするもう一つの大国、アメリカに目を向けてみましょう。 実は、アメリカでも今、私たちと同じように、特に子どもの「読解力」の低下が、国家的な課題として深刻に受け止められています。
昨年行われたの全米学力調査(NAEP)の結果(*1)は、多くの教育関係者に衝撃を与えました。 試験を統括する全米教育統計センター(NCES)のペギー・カー委員は、「これは重大な懸念事項だ」と述べ、アメリカが今、読解力に関して極めて複雑な課題に直面していることを認めています。読解力過去20年最悪の結果が示されました。

この問題は、決して私たちにとって「遠い国の話」ではありません。 グローバル化とデジタル化という同じ潮流の中にいる日本の私たちにとって、アメリカの現状は、未来を映す鏡となるはずです。
原因はパンデミックだけではない。
アメリカが直面する2つの根本問題
なぜ、これほどまでに読解力が低下してしまったのでしょうか。 カー氏は「単にパンデミックが原因ではない」と指摘し、問題の根がより深いところにあることを示唆しています。専門家が指摘する、主な原因は2つあります。
問題①:「趣味としての読書」が消えている
一つ目は、趣味で読書をする生徒が、劇的に減っているという事実です。 スマートフォンで次から次へと流れてくる短い動画や、ゲームの刺激に比べ、一冊の本とじっくり向き合う時間は、子どもたちにとって退屈で、集中力のいる活動に感じられてしまうのかもしれません。 しかし、この「目的のない読書」の時間こそが、子どもの語彙力や想像力を豊かにし、読解力の土台を築く上で、何よりも重要なのです。
問題②:「文脈から意味を推測する力」の欠如
二つ目は、より深刻な問題です。
調査運営委員会のレズリー・マルドゥーン氏は、「基礎レベルに達しない小学4年生は、聞き慣れた単語でさえも、文章の文脈からその意味を判断することができない」と語ります。
これは、ただ単語を知っているか知らないか、という話ではありません。
文章全体の流れを追い、言葉と言葉の関係性を読み解き、「ここでは、この言葉はきっとこういう意味で使われているんだろうな」と類推する力、つまり「思考する力」そのものが失われていることを意味しています。
[写真:たくさんの本が並んだ図書館の書架の前で、どの本にしようか迷っている子どもの後ろ姿]
対岸の火事ではない。日本の家庭で、今すぐできること
このアメリカの現状は、数年後の日本の姿と言っても過言ではないかもしれません。 では、情報が溢れ、読書離れが進むこの時代に、私たちは家庭で何ができるのでしょうか。
行動①:「読書」を日常の「イベント」にする
「本を読みなさい」と子どもに言う前に、読書が「楽しい時間」になるような環境を整えてみませんか。
例えば、週末の30分間、家族それぞれが好きな本を持ち寄り、リビングで静かに読書に没頭する「ファミリー読書タイム」を設ける。お気に入りの本について語り合う夕食会を開く。図書館を「宝探しの場所」と位置づけ、定期的に通う。 読書を「勉強」から切り離し、楽しい娯楽の一つとして捉え直す工夫が大切です。
行動②:「言葉のシャワー」で、文脈力を鍛える
文脈を読み解く力は、会話の中で最も自然に育まれます。 今日あった出来事について、「それで、どう思ったの?」と子どもの感情や考えを深く掘り下げて聞いてあげる。少し難しい言葉や、豊かな表現を、大人が意識して日常会話で使う。ラジオなどオーディオブックスなど、たくさんの「言葉のシャワー」を浴びることが、言葉への感性を磨き、文章全体の意味を捉える力を養います。
行動③:辞書をお友達にさせる
本を読んだ後、「面白かったね」で終わらせず、新しい言葉や意味が曖昧なものは、積極的に辞書で調べる習慣を身につける。まぁはすの学習支援では、徹底的に「この言葉、どういう意味だろう?」と、知らない言葉に出会った時に、言葉の意味をちゃんと調べることを子どもたちに課しています。こうすることで、読解力が飛躍的に上がります。
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未来を拓く力は、一冊の本から
読解力の低下は、アメリカだけの問題ではなく、デジタル時代を生きる世界共通の課題です。 そして、その解決の鍵は、特別な教材やメソッドにあるのではなく、一冊の本を間に挟んで、親子が対話し、共に考える、温かい日常の時間の中にあります。
子どもたちが豊かな言葉の世界と出会い、自分の頭で深く考える喜びを知ること。 そのサポートこそが、変化の激しい未来を生き抜くための、最高の贈り物になるはずです。
【出典元】
- Explore Results for the 2024 NAEP (調査結果: オリジナル)
- 米国で小中学生の読解力低下進む-全国試験の結果は約20年で最悪 (Bloombergのサイト)


