先日、令和7年度の全国学力調査の結果が公表され、「読解力」や「記述力」の低下が指摘された。


(出典:国立教育製作所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料」より)
多くの方が、子どもたちの未来を案じ、胸を痛めたことと思います。しかし、これは単に「テストの点数」だけの問題なのでしょうか。
最近、街やSNSで、些細なことでカッとなったり、攻撃的な言葉をぶつけたりする人が増えたと感じませんか? 私たちが直面している問題の根は、もっと深く、そして私たち大人自身の生活にも繋がっているのかもしれません。
東北大学の川島 隆太教授たちは、以前から警鐘を鳴らしていました。
スマートフォンなどを長時間使う子どもほど、脳の神経線維が集まる「白質」の発達が遅れ、感情のコントロールや共感性の土台が育ちにくくなり、学力も低下傾向があるとー

これは、日本だけの話ではありません。 昨年(2024年)発表された米国保健福祉省のレビュー論文“The Impact of Digital Devices on Children’s Health: A Systematic Literature Review”でも、2歳から12歳の子どもにおけるデジタルデバイスの長時間使用が、睡眠障害、行動問題、学業成績の低下、そして友人関係などにおける社会情緒的な問題に、深刻な悪影響を与えると結論づけています。
米国保健福祉省 (外部リンクに飛びます)

知らないことは、気づくことができません。 便利な道具が、知らず知らずのうちに、私たち自身の「人間らしさ」の土台を静かに蝕んでいるとしたら。私たちはまず、その事実をまっすぐに見つめる必要があります。
便利な道具だからこそ、つい頼ってしまう。それは、大人も子どもも同じです。 「静かにしていてほしいから…」と、ついスマホを渡してしまう瞬間。 「どうしてこんなに長く使っているの!」と、親子で気まずくなってしまう夜。 多くのご家庭で、試行錯誤されていることと思います。
この悩みは、実は世界共通です。
教育先進国として知られるスウェーデンでは、かつて国を挙げてデジタル教育を2011年から推進しました。しかし、2022年OECDが実施する学習到達度調査(PISA)の結果で、子どもたちの読解力や数学的リテラシーが大きく低下したことを受け、2023年、「やはり、紙の教科書は大切だ」と、大きくアナログへと方針を転換したのです。
面白いことに、スウェーデンの調査では、デジタル教材を使う時間が長すぎると、かえって成績が下がってしまう「弓なり」の結果が出たそうです。これは、デジタルが「悪」なのではなく、大切なのは「バランス」だということを、私たちに教えてくれているのかもしれません。
スェーデンの方針転換 (JETROの報告書に飛びます)
では、私たちは何を失いつつあるのでしょうか。
それは、インターネットで検索しても決して出てこない、大切な力です。
言葉にされていない相手の気持ちを想像する力。 自分の感情と向き合い、ぐっとこらえる力。 答えがすぐに出なくても、じっくりと待ち、考え抜く力。
これらは、人と人が共に生きていく上で、何よりも大切な「思いやり」や「誠実さ」の根っことなるものです。
WHOの見解
では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。 一つの目安として、WHO(世界保健機関)は、2歳未満の子どものスクリーンタイムはゼロ、未就学児は1日1時間までが望ましく、遊びが重要だと示しています。
WHO (外部リンクに飛びます)
しかし、忙しい毎日の中でこれを完璧に守るのは、至難の業かもしれません。 だからこそ、私たちは「ダメ」と禁止するだけでなく、もっと温かく、積極的な関わりを大切にしたいのです。
意識して「不便で、手間のかかる、豊かな時間」を取り戻す
ここで、私たちが本当に育みたい「力」とは、何なのでしょうか。
テストの文章を正しく読み解く「読解力」。もちろん、それも大切でしょう。
でも、それ以上に尊いのは、友達の悲しい顔から、その心を読み解いてあげられる優しさではないでしょうか。
言葉にはなっていない「ありがとう」の気持ちを感じ取れる、温かい心ではないでしょうか。
インターネットで検索すれば、答えはすぐに見つかります。
でも、人生には、すぐに見つからない答えがたくさんあります。 自分の頭で悩み、考え抜き、時には失敗しながらも、自分だけの答えを見つけ出していく。そのプロセスこそが、困難にぶつかった時に自分を助け、人を思いやり、自分の人生を豊かに創っていく「生きる力」の源泉になります。
デジタル機器との上手な付き合い方を考えることは、これからの時代、避けては通れません。 でも、それ以上に、私たち大人が家庭でできる、もっとシンプルで、もっと温かい処方箋があります。

それは、家族で食卓を囲んで、今日あった出来事をたくさんおしゃべりすること。
「それで、どう思ったの?」と、お子さんの言葉にじっくり耳を傾ける時間こそが、最高の国語の授業になります。

それは、親子で一冊の本を読んで、「面白かったね」と感想を言い合うこと。
同じ物語の世界を旅する体験が、人の気持ちを想像する力を豊かに育みます。

それは、休みの日に、一緒に自然の中へ出かけること。
土の匂い、風の音、葉っぱの手触り。
五感をフルに使う体験が、脳を何よりも活性化させ、子どもたちの心を健やかに育ててくれます。
人と心を通わせる喜び。自分の頭で考える楽しさ。そして、家族と笑い合う、何にも代えがたい温かい時間。
まぁはすは、そんな「生きる力の根っこ」を育む場所でありたい。
便利な道具と上手に付き合いながら、私たちは子どもたちに、もっともっと大切なものを手渡していけるはずです。


