「一度もスムーズに回答できたことはない」
これは、学校でのタブレット授業後、子どもたちから発せられている言葉です。
コロナ禍が始まって以来、デジタル化が進む学校現場。
授業でタブレットを使う機会が増えることは、未来に向けた大切な一歩だと誰もが願っています。しかし、その裏側で起きている現実は、私たち親が目を背けてはいけない深刻な問題を含んでいます。
タブレットが生む「学びの停滞」
子どもたちから聞く話は、耳を疑うものです。
先生が「問題を解きましょう」と合図を出すと、一斉にタブレットの電源が入りますが、最初に来るのはネットワークエラー。エラーが解消されることを待ってようやく繋がったと思えば、答えの入力後にバグが発生し、また最初から入力し直し。
これを何度も繰り返していたら、子どもたちは積極的にタブレットを使おうとするでしょうか? 根気を鍛えるには「ベスト」かもしれませんが、学ぶ意欲を削ぐには最悪の方法です。
「一度もエラーもバグも出ずにできたことはない」
時間ばかりが経過するうちに、教室のあちこちから「またかよ」という諦めの声が漏れ始め、問題を解くのをやめる子まで出てくる。高学年になれば、タブレットを広げた瞬間にYouTubeやSNSを見始める「悪知恵」が働く子もいるというのです。
先生一人では、これだけ大半のタブレットで発生する問題に対応できません。これは、「教育」以前の「環境」の問題です。
学力低下の背景にあるもの
こうした学校現場の混乱を目の当たりにした親御さんは、心配のあまり、せっせと塾に送り込む。結果、子どもは学校の宿題よりも塾の宿題を優先することを選びます。塾に行かずとも家庭でしっかり勉強できる子と、そうでない子の間で、学力格差は開いていくばかりです。
その結果が、文部科学省が公表した、2020年以降の学力低下を示す折れ線グラフに、はっきりと表れてしまったのではないでしょうか。

文部科学省の発表では、「新型コロナの影響」が大きいといいます。果たして本当でしょうか。
ある低学年の子どもは言います。「学校でタブレットを使って問題を解くよりも、家で漢字や計算ドリルをした方が早く問題が解けて、勉強もすぐに終わるから良い」と。
デジタルツールが、学びを便利にするどころか、足を引っ張っている現実があるのです。
親御さんの中には、学校の先生に個別の要望を出す方もいますが、先生への負担が増えれば増えるほど、かえって学校全体の環境が悪くなっているという事実も、親は認識し、共に考える必要があります。
今、子どもたちを取り巻く危機
10月最終週、文部科学省からは、子どもたちに関するさまざまなデータが公表されました。いじめ、暴力行為、不登校、そして自殺。そして学力低下。残念ながら、一つとして良い数字はありません。
いずれの数値も「過去最高値」を更新してしまいました。詳しくは、次回の投稿でご紹介します。
これらの数字は、子どもたちが今、学校という場所で、心身ともに追い詰められていることの証左ではないでしょうか。
安岡正篤先生の説く「惟神の道と易経の融合」が示す通り、子どもたちの人格形成において、心身ともに健全な環境は何よりも重要です。デジタル化の波に乗り遅れることを恐れるあまり、目の前の子どもたちの「学びの意欲」と「心の安定」という、最も大切な土台を揺るがしてしまってはいないでしょうか。
私たち親は、学校の環境改善を「誰か」に任せるのではなく、この現実に目を向け、子どもたちの学びと心の安全、健全な成長支援を守るために、何ができるかを真剣に考える時期にきていることを心に止めておかれることをお勧めします。


