本当の「頭の良さ」の育て方
先日、ノーベル化学賞を受賞された北川進特別教授が、受賞会見でとても印象的な言葉を引用されました。
”幸運は、準備された心にのみ宿る”
Chance favors only the prepared mind
これは、約150年前に活躍した、フランスの偉大な科学者ルイ・パスツールの言葉です。
素晴らしい言葉だと思いませんか?
そこで、早速、学習支援をしている子どもの課題図書に、『パスツールの伝記』を選びました。
今日は、なぜ私たちがドリルや問題集ではなく、あえて「伝記」を選んでいるのか、その理由をご家庭での子育てのヒントとして、ご紹介させてください。
「パスツール」って、どんな人?
「パスツール」という名前を、もしかしたらご存知ない親ごさんもいらっしゃるかもしれません。 彼は、私たちの現代の「当たり前の生活」を創り上げた、偉人中の偉人かもしれません。
- 病気の原因を発見:
目に見えない「細菌」こそが、病気や腐敗の原因であることを突き止めました。 - 食品を安全に:
牛乳やワインを低温で殺菌し、安全に飲めるようにする「低温殺菌法(パスチャライゼーション)」を発明しました。 - 命を救う: 狂犬病や炭疽(たんそ)病といった、恐ろしい病気のワクチンを開発し、多くの命を救いました。
彼自身はノーベル賞を受賞していません(*)が、その研究は後の多くの受賞者たちに計り知れない影響を与え、「近代細菌学の父」と呼ばれています。
テキストが「知識」を教え、伝記が「知恵」を教える
では、なぜ今、子どもたちがパスツールについて知ることが大切なのでしょうか。
テキストやドリルは、私たちに「正解」を教えてくれます。
それはもちろん、学びの土台として非常に重要です。 しかし、パスツールのような偉人の生涯は、「まだ正解のない問題に、どう立ち向かったか」という、試行錯誤のプロセスそのものと、長期的な視点を持つことの大切さを私たちに教えてくれるのです。
「なぜ、人は病気になるんだろう?」
「どうすれば、この目の前の命を救えるだろう?」
彼が直面した問いに、教科書は答えをくれませんでした。 何度も失敗し、周りから理解されなくても、諦めずに観察し考え続けた「心の姿勢」、解を見つけるまで取り組み、長期的な成功に大きく影響する「やり抜く力」などを育むのです。
それこそが、「幸運(チャンス)」を掴むために彼が続けた、「心の準備」だったのです。
北川博士も、周囲からの理解も得られず、研究者たちからも非難轟々を受けたとインタビューでおっしゃっていました。そんな時、博士を支えたのがパスツールの教えだったのかもしれません。
ご家庭でできる「時の人」からの学び
これは、子育てをされている親ごさんにとっても、大きなヒントになるのではないでしょうか。
お子さんに「時事問題」を学ばせようとするとき、ニュースで話題になった「用語」を覚えさせるだけで、終わらせていないでしょうか。
例えば、今回のノーベル賞のニュース。
それは、「北川進」という名前を暗記させるだけでは、あまりにももったいない。
「この人は、どんなことにワクワクして、何十年も研究を続けたんだろう?」
「どんなことで失敗し、どうやって乗り越えたんだろう?」
その受賞者の「人となり」や「情熱」について、親子で一緒に調べてみる絶好の機会なのです。
テキストが「知識」という点を教えるものだとしたら、偉人や「時の人」の生き方は、その点と点を結びつけ、社会のためにどう活かすかという「知恵」と「情熱」を教えてくれます。
それこそが、お子さんの未来にいつか訪れる「幸運」をしっかりと掴むための、本物の「準備された心」を育む、一番の近道なのかもしれません。
(*)パスツールは1895年に亡くなり、ノーベル賞の受賞は1901年から始まりました。


