日々の忙しさの中で、私たちはつい、目の前の成果や分かりやすい結果を求めてしまいがちです。しかし、少し立ち止まって、子どもたちの未来に繋がる本当に大切なことについて、一緒に考えてみませんか?
ノーベル賞受賞者が語る「基礎研究」の価値
今年もノーベル賞が発表される時期になりました。
ノーベル賞受賞者の言葉には、これまでも幾度となく深く感銘を受けましたので、ご紹介をします。
多くの方は、自身の研究を振り返り、このようにおっしゃっています。
「私の研究は、始めた当初、一体何の役に立つのか、誰にも分かりませんでした。ただ純粋な好奇心に導かれ、何十年も探求を続けた結果、想像もしていなかったような発見に繋がったのです。」
このお話、即戦力や短期的な成果を重視する方々には、少し耳の痛い話かもしれません。
しかし、これこそが物事の本質を突いているように思えてなりません。
それは、私たちの子育てや教育のあり方にも、大切なヒントを与えてくれているのではないかということです。私たちは子どもたちに対し、「すぐに役に立つこと」や「目に見える成果」を求めすぎてはいないでしょうか。
「早く計算ができるようになってほしい」
「テストで良い点を取ってほしい」と願うあまり、子どもが持つ、すぐに結果には結びつかないかもしれない純粋な好奇心や探求心の芽を、無意識のうちに摘んでしまってはいないでしょうか。
「ハウツー本」が奪うもの
あるベストセラーを量産している編集長が、こんな嘆きを口にされていました。
「もう何十年も前から、出版業界では目の前の楽しさ、分かりやすさ、手っ取り早さが求められ、答えだけが書いてあるハウツー本ばかりが作られています。その結果、日本人の読解力も国語力も低下する一方です。これは非常に大きな問題です。」
これもまた、先ほどの基礎研究の話と驚くほど似ているとは思いませんか?
すぐに答えが手に入り、失敗しない方法が示されている「子育てのハウツー本」や「学習ドリル」。
もちろん、それらが助けになる場面もたくさんあるでしょう。
しかし、そればかりに頼ってしまうと、子どもたちはどうなるでしょうか。
じっくりと自分の頭で考え、試行錯誤し、時には失敗しながらも本質に近づいていく…という、最も大切な学びのプロセスを経験する機会を失ってしまうかもしれません。
手っ取り早い「答え」は、深い思考力や応用力、そして困難に立ち向かう力を育む機会を奪ってしまう危険性があるのです。
子育ては、未来への「基礎研究」
子どもたちの「これ、なあに?」という問い。夢中になって何かを集めたり、一見無駄に見えるような遊びに没頭したりする時間。それら一つひとつが、彼らにとっての壮大な「基礎研究」です。
その研究が、将来どのような「発見」に繋がるのかは、誰にも予測できません。もしかしたら、私たちが想像もつかないような、全く新しい分野で花開く才能の種なのかもしれません。
私たち大人の役目は、その研究の成果を急かしたり、評価したりすることではなく、子どもが心ゆくまで探求できるよう、その環境を温かく見守り、応援することではないでしょうか。
答えをすぐに与えるのではなく、一緒に考える。
失敗を責めるのではなく、再挑戦を励ます。
そのような関わりこそが、子どもたちの内なる力を信じ、彼ら自身の力で未来を切り拓いていくための、何よりの土台となると私は信じています。
子どもたちの可能性という、この世で最も価値のある「基礎研究」に、長い目で見守りながら、じっくりと関わっていきませんか。


