東京の街を歩いていた時、ある子がポツリと呟きました。
「東京は、似たようなビルがたくさん並んでいるけれど、
そのビルを包み込むように大きな木が生えていて、草もいっぱい植えてあるね」と。
その真っ直ぐな瞳が、大人では見過ごしがちな風景の本質を捉えていることに、私は心を打たれました。そして同時に、あるお話を思い出していました。それは、たった一人で荒れ果てた土地に木を植え続け、やがて豊かな森を蘇らせた男の物語、『木を植えた男』です。
この物語の主人公は、誰に褒められるでもなく、見返りを求めるでもなく、来る日も来る日も、来るべき未来の世代のために、黙々とドングリの種を植え続けます。彼の行いはすぐには形にならず、多くの人には意味のないことのように見えたかもしれません。しかし、数十年後、彼が植えた種は壮大な森となり、枯れた泉は再び命の水を湛え、鳥や動物、そして人々が戻ってくる、希望の地に生まれ変わったのです。
私たちは、日々、目先の利益や効率を優先するあまり、未来への種まきを忘れてはいないでしょうか。
子どもの「木を植えてほしいな」という切なる願いは、ただ「緑が欲しい」というだけではありません。
そこには、鳥の声が聞こえ、虫たちが集い、木陰で人々が休み、多様な命が共存する豊かな世界への憧れが込められています。それは、私たちが次の世代に手渡すべき、最も大切な贈り物の一つです。
2027年、私たちの住む横浜で、国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」が開催されます。 これは、私たちにとって大きなチャンスです。
かつて、この街にもたくさんの街路樹が植えてありました。
開発のために切り倒されてしまったその場所に、もう一度、未来のための木を植えませんか?

信号待ちで、肌を刺すような猛烈な日差しを浴びるたびに思います。
ここに一本の木があれば、どれだけの人がその木陰で救われるかしらん。
一本の木が、どれだけの生き物の「憩いの場所」になるかしらん。
そして木々は、私たち人間に、とびっきりすてきなプレゼントをくださっていることはご存知ですか?
それは「フィトンチッド」と呼ばれる、森の香り。
木々が自ら放つこの不思議な力は、私たちの心を深くリラックスさせ、
ストレスを和らげ、心身を健やかにしてくれます。
一本の木が、どれだけの人の心を癒し、どれだけの生き物の「憩いの場所」になるでしょう。
『木を植えた男』のように、一人ひとりの力は小さいかもしれません。 しかし、未来を思う心が集まれば、きっとこの街を、子どもたちが誇れる緑豊かな場所に変えていけるはずです。
2年後の博覧会が、そのための大きな一歩となることを、心から願っています。


