こんにちは。
ここ何日間は涼しい日が続いていますが、いかがお過ごしですか?
少しずつ、『子育てのヒント』になるようなお話もご紹介していきましょう。
第1回目は、子育てを終えたあるお母さんのお話です。
時間が、まるで嵐のように過ぎていく日々。
夢中で走り続け、ふと立ち止まった時、言いようのない切なさが胸にこみ上げてくることはありませんか?
「もっと、娘のことを理解する親でありたかった…」
気がつけば、あんなに小さかった娘は、もう大人になってしまった。
ぽっちゃりとしてかわいかった手は、いつの間にか繊細で華奢な手に変わっていた。長い指先はピアノの先生にもよく褒められていた。
今でも、爪は丁寧に磨かれ、手のひらは、ひんやりとしているのかしら?
ガラス細工のように儚い手からは想像もつかないほどに、娘は逞しく育った。
これまで、私は娘を大切に育ててきたという自信は、全くない。
「愛してる」とも、「大事よ」とも、今、思い出しても伝えられていた記憶がほとんどないのだ。
ピアノの先生が娘に、「お母さんはクールな方ね」と、話していたことが思い出される。
一体、私は何に時間を使っていたのかしら。 その時々で一生懸命だったことは確かなのに、今となっては思い出せない。
もっと、もっと、抱きしめてあげればよかった。
声に出して、「応援しているからね」と、伝えればよかった。
成績が悪ければ叱った。
受験が迫れば「もっと頑張れ」と、言い続けた。
進路を選ぶ時も、親としての責任を果たすことに必死で、娘の気持ちを置き去りにしてしまった。
「大学選びも親がするものだ」と、いう塾の先生の言葉を鵜呑みにした。
「これが一番のやり方。正しい」
そう信じて疑わなかった。
でも、本当にそれでよかったのかしら?
後悔の波が、小さく、時に大きく私に押し寄せてくる。
目の前にいた愛しい娘が、どれほどの不安やプレッシャーを感じていたか。
当時の私は、想像すらできなかった。
「ママー、大好き!」
そう言って、小さな身体で全力で抱きついてくれた、あの瞬間に戻ることができたら…。 少しは、この心は軽くなるのかしら?
アルバムを眺めながら、ふと、”あの日”のことを思い出した。
居ても立っても居られなくなり、娘に電話をかけてみた。
幸い、娘はすぐに電話に出てくれた。
「ママ、どうしたの?」
弾んだ声が、電話の向こうから聞こえてくる。
「…元気でいるの?」
少し上擦った声で尋ねると、娘はあっさりとこう言った。
「今から授業なの。じゃあね」
プープー…
機械の音がスマホから流れてくるのを黙って聞いていると、胸がいっぱいになり、涙が溢れてきた。
私は、「何を伝える」ために、娘に電話をしたのかしら。
”あの日”伝えられなかった、娘への詫びを伝えたかったのかしら。
それとも、ただ一言、
「大好きよ」と、伝えたかったのかしら。 (続く)


